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巨人・沢村投手の肩の異和感の顛末に鍼灸師が覚える違和感

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追記:プロ野球選手への施術ミス報道を受けて 業団が連名で巨人に質問状を送付 [2017.09.21]

巨人、沢村に謝罪 故障の原因ははり治療の施術ミスの可能性

2017.9.10 13:59(SANSPO.COM)

開幕前に右肩の異常を訴えて2軍で調整していた巨人の沢村拓一投手の故障の原因が球団トレーナーによるはり治療での施術ミスである可能性が高いとして球団が謝罪していたことが10日、分かった。
石井一夫球団社長、鹿取義隆ゼネラルマネジャー(GM)と当該のトレーナーが9日に川崎市のジャイアンツ球場で沢村に謝罪した。
鹿取GMによると本人は納得しているという。

球団関係者によると、沢村はキャンプ中の2月25日に右肩の不調を訴え、27日にはり治療を受けた。その後も状態が上向かなかったため、複数の医師の診察を受けて「長胸神経まひ」と診断された。まひは外的要因によるものとされ、はり治療で一時的な機能障害が引き起こされた可能性があるとの所見が出たことで、球団が謝罪した。

沢村は9月1日に今季初めて1軍に昇格したが、登板機会がないまま4日に出場選手登録を外れた。

※強調は筆者

※この記事は、実際に診察していない、報道で知り得る範囲からの個人的な推測です。
どのような針を使用し、どのような方法で施術したのか報道からは確認出来ませんでした。
その為、日本で一般的な針を使用し、一般的な方法で施術した前提での推測です。
特殊な針で特殊な施術をしていた場合はこの限りではありません。予めご了承ください。

 

↓主旨を4行でまとめてみた!(先にこちらを読んだ方が分かり易いかも)

★巨人沢村投手の報道を見て一鍼灸師が感じたもやもや感 まとめ(追記:2017.9.16)

 

「沢村の肩の異和感を複数の医師が「長胸神経麻痺」と診断し、鍼灸が原因と言った」と友人の柔整師から昨日、メールがありました。
「そんなことあるの?」と言うのが、友人の質問です。
「まあ、ニュース見てないし、俺が診察した訳じゃないから、はっきり言えんけどケースバイケースじゃない?」と答えました。
そう、返信したあと、「違和感」を覚えてネットでいくつかの新聞社のニュースを読んでみました。

上記は、SANSPO.COMからの引用です。(※強調は筆者)

 

違和感① 鍼で神経損傷?

私が覚えた「違和感」。それは、第一に「鍼治療で神経損傷」です。

通常の鍼灸針で神経損傷は起こり難いのです。
全く無いと言えば非科学的になりますので、そうは言えません(ここ大事なので覚えておいてください)。
しかし、「通常の鍼灸針で通常の手法で治療する限り、その蓋然性は著しく低い。まず起こらんだろう。」と言うのが率直な感想です。
こちら↓を見て戴くとお分かりになると思います。

通常の鍼灸針はこのように大変細く、しかも大変軟らかいのです。
神経に触れる事はあっても、神経細胞を麻痺するほど破壊する、と言うのは考えにくい。
そのため、逆に医療倫理を別にして、「神経損傷をやってくれ」と言われても、はた、と困ってしまいます。
ちょっとアイディアが湧かない。
自転車のスポークでも持って来ないと難しい。
中国の鍼ならそんなのもあるみたいだが。

もちろん、私自身、20年の臨床で神経損傷の麻痺を起こしたことはありません。
私の周囲でもそのような事例は聞いた事がありません。
ただ、こういう報告は鍼灸学会でなされています。
しかし、折鍼事故で鍼灸針が埋没したケースなどなので、刺入によって傷ついたケースとはちょっと違うと思います。
それ以外のケースも検証がしっかりされているか、これでは分かりません。

 

違和感② 証拠はどうしたんだろ?

第二が、「鍼治療が原因」です。

「鍼が原因」とするには、「証拠」が要ります。
神経に鍼による損傷痕を確認出来れば証拠と言えるでしょう。
しかし、こちらを見て貰えば分かりますが、通常の鍼の刺入痕の大きさは「蚊」と同じくらいと思ってもらってそうは違わない大きさです。
目視でも確認しがたいのに、身体組織という異物を透過前提の現在の画像診断で確認できるのか?
無理でしょう。

身体を切り開いて直接目視で確認と言う事も出来なくはありません。
しかし、現役の野球選手の身体を、治療ならまだしも検査でそんな事をするとは思えません。
それでも確認できるかと言うと前述の様に大きさから難しい訳です。
そんな報道も無いようです。

あとは、ちょっと弱くなりますが、治療前後の状況からの判断です。
「治療前に無かった症状が、治療中、または直後に出現した場合」には、その蓋然性は高いとは言えるとは思います。
ただ、これも必ずしもそうとばかりは言えません。
「偶然」無関係な事が同時に起きたかも知れないからです。
その上、報道を読む限り、「肩の異和感」は鍼灸治療前からあり、その為に鍼灸治療をしたのです。
となると、これも証拠として採用できません。

元々、医療事故の因果関係の証明は難しいものです。

となると、証拠は?
何の証拠をもって「神経損傷の原因は針治療」としたのか?

上述から証拠は無いと思います。
つまり、医師は針治療が原因とは言っていないでしょう。

荒唐無稽と思われるでしょうが、そうとしか考えられません。
証拠が無いのですから、「鍼治療が原因」とは言えないでしょう。
つまり、医師はそうは言っていない。

これについては、また後で説明します。

 

違和感③ なぜ、鍼治療をしたの?

「キャンプ中の2月25日に右肩の不調を訴え、27日にはり治療を受けた。」とだいたいどのメディアにも書いてありました。
メディアによって多少、表現が違います。

「右肩の不調」SANSPO.COM
「右肩の異変」スポーツ報知、時事通信
「右肩の違和感」日刊スポーツ
「右肩の張り」毎日新聞

いずれにせよ、鍼治療の以前から、右肩に異常がありその為に鍼治療を受けてたんですね。

 

 

違和感④ 長胸神経麻痺(ちょうきょうしんけいまひ)

さて、ここで沢村投手が罹患した長胸神経麻痺について少しご説明します。

長胸神経は、図の様に肩甲骨を体幹に固定する筋肉の前鋸筋(ぜんきょきん)の支配神経です。
そのため、長胸神経が障害されると肩甲骨が体幹から浮き上がり、上肢、肩の動きに異常が起こります。
軽い場合、ピッチング動作時などに「肩の異和感」を感じることは十分あり得ます。

長胸神経麻痺は、比較的長時間の肩の圧迫、脇の強打、神経の伸長(下記を参照)など「外的要因」で起こります。
図の様に長胸神経の経路は、首から脇にかけて浅い部位を走行します。
ですから、外的要因によって傷害を受けやすいのです。

日本整形外科学会のHPで、前鋸筋の単独麻痺の翼状肩甲の「原因と病態」の項目で、

「前鋸筋の単独麻痺はこの筋を支配する長胸神経が、テニスのサーブやゴルフのクラブスイングのようなスポーツや、産褥期の腕を挙上した側臥位での新生児との添い寝などによって伸張されて麻痺するのが主な原因です。」

と書かれています。
つまり野球のようなスポーツは、「長胸神経」に傷害を受ける機会が多いスポーツだと言えます。
ちなみにテニスのサーブは、ピッチング動作と同じ運動パターンに分類されます。

長胸神経麻痺は、回復に3~6か月、時にはさらに長期かかることが知られています。

沢村投手が一般人であったり、または別の神経障害であったのなら、私は「違和感」を覚えなかったでしょう。
「なんで、いかにも野球選手が障害を受けそうな長胸神経麻痺?」というのが私の違和感です。

 

【長胸神経麻痺の症状・原因・治療】(←詳しい長胸神経麻痺の説明はこちら)

私の推測

上記の事から、私の推測は、
①もともと鍼治療以前にクロスプレー、デッドボール、バットスイング(おそらくピッチングも)など「外的要因」で長胸神経麻痺を起していた。
②そのため、肩甲骨運動が異常になり、投球動作で肩の異和感を訴えた。
③球団トレーナーが鍼治療をした
④長期間治らない(もともと長期かかる疾患の為)
⑤病院で複数の医師が「長胸神経麻痺」の診断
⑥原因について、「外的要因」と聞いて、誰か(沢村本人か球団関係者)が「鍼で起こるか」と聞いた。
⑦医師は「可能性はある」と答える(無いとは言えない)。
⑧鍼が原因で長胸神経麻痺や!(球団関係者?)

こんなところなんじゃないかと思います。

つまり、「球団トレーナーは事故を起こしていない」と私は推測します。

前述の事柄を総合して考えると、鍼治療で損傷するよりも、野球由来の動作で損傷を受けたと考える方がはるかに自然だと思うのです。

 

メディアの報道

下記は各メディアの報道の仕方です。

【時事通信】

タイトル:はり治療が原因か=右肩痛の沢村、巨人が謝罪-プロ野球
球団:球団トレーナーの施術ミスの可能性があると明らかにした。本人には既に謝罪した。
医師:「はり治療により前鋸(ぜんきょ)筋機能障害を起こした可能性が考えられる」との所見を受けたという。

【サンケイスポーツ(SANSPO.COM)】

タイトル:巨人、沢村に謝罪 故障の原因ははり治療の施術ミスの可能性
球団:球団トレーナーによるはり治療での施術ミスである可能性が高いとして球団が謝罪していた
医師:まひは外的要因によるものとされ、はり治療で一時的な機能障害が引き起こされた可能性があるとの所見が出たことで、球団が謝罪した。

【日刊スポーツ】

タイトル:巨人沢村、球団トレーナー施術ミスで神経まひ可能性
球団:球団トレーナーの施術ミスがあった可能性が高いことを10日、明らかにした。
医師:外的要因によるもので、はり治療で長胸神経まひとなり、前鋸(ぜんきょ)筋機能障害を引き起こした可能性が考えられるとの所見が出ているという。

【毎日新聞】

タイトル:巨人・沢村 ハリ治療ミスの可能性
球団:球団トレーナーによるはり治療での施術ミスが原因だった可能性があることを明らかにした。
医師:「はり治療で一時的にまひが起き、前鋸(ぜんきょ)筋機能障害を引き起こした可能性が考えられる」との所見を示したという。

 

こうやって見ると、医師の見解は、「可能性がある」または「可能性が考えられる」です。
「可能性が高い」と言う表現は球団の発表です。
しかも、全社ではない。

ふつう、「可能性」は、「ある」か「無い」です。
「可能性が高い」は慣習的に使われてもこういう場合は誤用です。
ですから、この表現は医師が使ったとは思えません。
医師は場合によっては裁判に引っ張り出されることだってあるのですから、その辺はきっちりします。
だから、可能性が「ある」か、「考えられる」。

「鍼で神経損傷は起こり得るか?」と問われれば、「その可能性はある」としか答えようがありません。
「ない」と言う事は誰にも言えません。
前述のように(覚えてますか?)、私だってそう答えざるを得ません。
あらゆる偶然が重ならないと起こりえない、百万回に一回の確率だっとしても、「可能性はある」。

複数の医師が「長胸神経麻痺」と診断したのは間違いないでしょう。
複数の医師の診察と診断、説明の流れで、うち一人の医師に外的要因として鍼はあり得るか?と誰かが問うた。
そして一人の医師が「可能性はある」と答えたのだと思います。

証拠が無い以上、それ以上の事は言えない筈です。

むしろ医師達は、沢村投手の「外的要因」は、職業上の動作にあるのでは、と考えていたと思います。
専門科は報道では確認出来ませんでしたが、ケースから考えれば、全員、整形外科医、それもスポーツ医もいたはずです。
もしかしたら、神経内科医もいたかもしれません。

投手なので、接触プレーやデッドボールは無いかも知れないけど確認はしておこう。
医師「長胸神経麻痺は外的要因で起こります。思い当たる事はありますか?」
誰か「…鍼治療で起こりますか?」
医師「可能性はありますね。」

これが、長胸神経麻痺の原因は鍼治療とされたのでは無いでしょうか。

そもそも、普通の医師は鍼灸針についてよく知りません。見た事も無い医師の方が普通でしょう。
(整形外科医は比較的知っていることが多い)
「針」と言えば、自分たちが使う注射針です。
これは、先の比較画像でも分かるように鍼灸針に比べるとはるかに太く、硬い。
鍼治療の針となると、認識は一般の方と変わりません。
映画などで強調されたスポークみたいな「ぶっとい鍼」。
ですから、なおさら「可能性はある」と答えるでしょう。

 

よく読めば、各報道も「医師が鍼治療が原因である」と断定した、とは書いてありません。

あくまでも「可能性」です。

ですから、初めの友人の柔整師が、「沢村投手が針治療によって神経損傷を受けた」と言うのは誤読になります。

しかし、ほとんどの方がそう読むのではないでしょうか?

断定的な記述はありませんが、そうとしか読めないように書いてあります。

報道もそう考えて書いているからだと思います。

そして、報道も読者もそう捉える一番の理由は、「球団が謝罪した」からでしょう。

何故、球団は根拠の不確かな事で謝罪したのでしょう?

これが私の最後の「違和感」です。

正直分かりません。

もしかしたら、報道には出ていない、球団の調査結果があるのかも知れません。

球団トレーナーが、特殊な治療にチャレンジしていて、自ら「やっちゃった」という感触が治療中にあったのかも知れません。

いずれにせよ、これ以上は外から見ていては分からない事です。

 

終わりに

私は、球団トレーナーを擁護するものではありません。
むしろ批判されるべきと考えます。
この報道で迷惑をこうむった鍼灸師は少なくないでしょう。
当院では幸いにもそういう事はありませんでしたが、昨日、今日と説明に追われた鍼灸師も多かったのではないでしょうか。
もしかしたら、説明のチャンスも与えられずキャンセルだってあったでしょう。

ミスをしたかも知れないから、批判されるべきと言うのではありません。
述べてきたように、私はミスをしていないのではないか、と考えています。

では、なぜか?

恐らく、球団トレーナーは、日頃から選手の訴えに対してきちんと診察、検査をしていなかったと思われます。
何故そう言えるかと言うと、「長胸神経麻痺」は、触診、視診、徒手検査で確認できるからです。
前述の日本整形外科学会のHPで、前鋸筋の単独麻痺の翼状肩甲の「診断」の項目にもそう書かかれています。
また、カルテも付けていなかったのではないでしょうか。

但し、発症直後で萎縮が軽度なら分かり難いと思います。
しかし、報道によれば、期間は不明ながら「長期」施術していたようです。
だとすれば、その間に気づくことは出来たのではないかと思います。
気づいた結果、球団に相談して病院に送ったのならば、「運が悪かった」として気の毒です。
私の批判は的外れですので謝罪致します。

しかし、やはり、そうで無かったとして、もし、これらをきちんとしていれば、疑いをかけられても反論できます。
鍼治療以前に「長胸神経麻痺」は起こっていたことが証明できたはずです。
これらが無かったために反論できずに言われるまま謝罪になったのだと思います。
そうでなければ、やはり、前述のように球団と当事者だけが知っていることがあるのでしょう。

そして、そのために全鍼灸師が要らぬ手間をかけさせられる事に対して批判されるべきと思うのです。
また、鍼灸治療の安全性に対する信用を落としたからでもあります。

スポーツ報知によると、鹿取GMは、謝罪に至った理由として、「彼のために(名誉を)回復したいと思った」と報道されています。

真相を明らかにして、ぜひ、鍼灸と鍼灸師の名誉も回復していただきたいと思います。

鍼灸師会は早急に独自に調査し、結果を公表すべきであると考えます。

 

最後の最後の違和感ですが、

何故、球団トレーナーの資格がどこにも書いていないのか?

天下の巨人のトレーナーがまさか、無資格で鍼治療をしたなんてことは考えにくいです。
では何故?これも分かりません。
単に私が報道を見落としてるだけなんだと思います。

 

 

↓併せて読みたい!主旨をこちらに4行でまとめました!

★巨人沢村投手の報道を見て一鍼灸師が感じたもやもや感 まとめ(追記:2017.9.16)

関連記事:

★長胸神経麻痺の症状・原因・治療

★プロ野球選手への施術ミス報道を受けて 業団が連名で巨人に質問状を送付 [2017.09.21]

★巨人・沢村の件で鍼灸関連団体から送付された質問状に思う事

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